トップページ故障や不具合の修理事例【二輪自動車】 エンジン関係の故障、不具合、修理、整備の事例 (事例:141~150)


事例:E-149

エンジン内部に侵入した2サイクルオイルとロータリーバルブカバーからのオイル漏れについて


【整備車両】

 RG400EW-2W (HK31A) RG400Γ(ガンマ) 2型  年式:1987年  走行距離:1,200km


【不具合の状態】

 2番シリンダのロータリーバルブ下部から2サイクルエンジンオイルが漏れ出していました.


【点検結果】

 この車両はお客様のご依頼によりメガスピードにて各所分解整備したものです.

長期保管により始動不能に陥っていた為,様々な要因を排除せずに点検を行いました.

ここではその原因のひとつである,エンジン内部に2サイクルエンジンオイルが流入した不具合について記載します.


※同時に発生していたキャブレータや2サイクルエンジンオイル等の不具合に関しては後日別の項目で取り上げる予定です.



図1.1 2番シリンダクランクケースから溢れ出している2サイクルエンジンオイル

 図1.1は2番シリンダから溢れ出している2サイクルエンジンオイルの様子です.

受け皿に確実に排出できるようフィルムでガイドを作成してあります.

すでにキャブレータ内部が2サイクルエンジンオイルで充満していたことから,

エンジン内部へ流入した可能性が否定できない状況でした.

確認の為にキャブレータを取り外してクランクシャフトを回転させると図の様にオイルが溢れ出してきました.

簡易的な計測量は把握できるだけで約75mlに上ります.



図1.2 2サイクルエンジンオイル漏れの発生している2番シリンダロータリーバルブ

 図1.2は2番シリンダロータリーバルブ下部から液体が漏れている様子です.

色やニオイ,粘度,位置,そしてエンジン内部に2サイクルエンジンオイルが落下していたことから,

この液体は2サイクルエンジンオイルであると推測することができます.

本来2サイクルエンジンオイルはクランクケースの中にあってはならない為,

その原因を考える必要がありますが,これまでにもメガスピードで修理した他の数々の事例に取り上げているように,

2サイクルエンジンオイルがクランクケース内部に落下していた原因は,

キャブレータのオイルチェックバルブの衰損によるものであると判断することができます.




図1.3 オイル漏れの発生していたロータリーバルブ内部

 図1.3はロータリーバルブカバーを取り外した様子です.

カバーを外した瞬間に2サイクルエンジンオイルがクランクシャフト右端から外部に流出してきました.



図1.4 クランクシャフト右端から漏れ出している2サイクルエンジンオイル

 図1.4はクランクシャフト右端から流出している2サイクルエンジンオイルの様子です.

外部に排出させた2サイクルエンジンオイルの総量が約100ccであり,

そのうち約25ccがキャブレータ内部に落下していたことから,

少なくとも残りの約75cc程度はエンジン内部に落ち込んでいたことになります.

またロータリーバルブカバーを取り外してからもクランクシャフトからかなりの量のオイルが流れ出していたことから,

相当量の2サイクルエンジンオイルが内部に侵入してしまったと考えられます.



図1.5 新旧Oリング外観の比較

 図1.5は取り外した古いOリング(右側)と新品のOリングを比較した様子です.

取り外した古いOリングは全体的に硬化している上,形状が潰れたままになっている他,

密封する為の接触部にザラつきが発生していました.



図1.6 新旧Oリングの厚みの比較

 図1.6は新品のOリング(左)と古いOリングの厚みを比較した様子です.

目視でも容易に把握できる程度に古いOリングは潰れていることが確認できます.



図1.7 新旧Oリングの弾力性の比較

 図1.7は取り外した古いOリングと新品のOリングの弾力性を比較した様子です.

z軸は地面に垂直な線であり,y軸z軸と直角に交わる水平線,x軸はy軸と直角に交わる水平線です.

古いOリングは硬化している為,指で支えるとほとんど姿勢を崩さずにz軸方向に持ち上がります.

それに対して新品のOリングはゴムが柔らかく弾力性に優れ,

古いOリングと同様の角度でつまんでも,重力の影響でしなやかに変形していることが分かります.

この様に,単にゴムが潰れているかどうかだけの判断でなく,

全体として材質がどの様に経年変化したかを比較することにより,

容易に性能低下レベルを推し量ることができるのです.


以上の結果から,古いOリングは潰れと硬化が確認されます.

そしてこれは硬化の為に弾力性を欠いた結果潰れたまま変形してしまい,

密封性能が低下した結果オイル漏れにつながったものであると結論付けることができます.



【整備内容】

 ロータリーバルブハウジングとバルブカバーをシールするOリングは再使用不可能な状態に劣化していた為,

双方の合わせ面の状態に留意して対処し,同時にOリングを新品に交換しました.



図2.1 ハウジングに取り付けられた新品のOリング

 図2.1は新品のOリングをロータリーバルブハウジングに取り付けた様子です.

ハウジング側とカバー側のOリングに対する接触面を平滑に処理し,漏れという現象の再発防止策を実施しました.



図2.2 オイル漏れの修復されたロータリーバルブカバー

 図2.2はオイル漏れ修理の完了した2番シリンダロータリーバルブの様子です.

バルブカバーにアルミニウム合金の腐食が発生しており見苦しい状態になっていた為,

表面を美しく仕上げることにより,性能と外観の両面のリフレッシュを図りました.

また美しさを取り戻したカバーに合わせて取り付けスクリュ4か所もすべて新品に交換しました.


 最終的に同様の不具合の再発防止策として,

キャブレータに設置されている衰損しいていたオイルチェックバルブを取り外してストレート構造とし,

代替として新規に設計製作したオーバーサイズのオイルチェックバルブニップルを圧入し,

イグニションOFF・エンジン停止時において,

2サイクルエンジンオイルがキャブレータ内部やエンジン内部に侵入しない様にしました.



考察】

 この車両はお客様が新車から所有されていたものですから走行距離の1,200kmは間違いない数字です.

しかし距離はなくても,経年で四半世紀が経過していることから様々な部品が劣化していました.

オイルチェックバルブに関しても同様であり,例え1,200kmしか走っていなくても,

エンジン内部に2サイクルエンジンオイルが侵入してしまう程に衰損していたのです.

このことは走行距離が車両の状態を判断する材料の必要条件の一部でしかなく,

経年を考えることがいかに重要であるかを如実に示しているといえます.

また長期間使用しない場合の保管方法として,特に2サイクルエンジン搭載モデルであれば,

この様な事態に陥らない為にも,オイルタンクからオイルを排出しておくことが求められることが分かります.


 オイルの自然落下量は当社の測定により最大約10ml/24h程度ということが判明していますから,

完全に筒抜けになっていた場合は,9年間で約32,400mlすなわち約32リットルのオイルが自然落下していたことになります.

最もオイルタンクの量はそれ程ありませんし,

任意の角度におけるプランジャ停止位置の最小の自然落下量が4,2ml/24h程度ということも測定により明らかですから,

場合によってはそれ以下であったとしても不思議ではありません.

ここで重要なのは落下量の多寡ではなく,長期保管時における総合的な落下量の問題に集約されます.

ごくわずかな漏れであっても,9年という年月を経た場合はそれなりに溜まり,

いわば塵も積もれば山となるという通り,

この事例の様にエンジン内部がオイルで充満してしまうことも十分に考えられるのです.


 今回の事例では2番キャブレータのみオイルチェックバルブが衰損していた為,

2サイクルエンジンオイルのキャブレータ内部及びエンジン内部への侵入を許しましたが,

これはたまたま2番が衰損していた,

あるいはプランジャの停止位置が2番にとって都合の悪い角度であったというべきであり,

同様に1番から4番が同じ症状に陥っていたとしてもおかしくはありません.

お客様の保管は通常のバイクの停車状態いわゆるサイドスタンドを出して車体を斜めにして保管されていました.

普通は一般的にはこの様に駐車あるいは停車,保管するものです.

しかし今回の事例では,2サイクルエンジンオイルがキャブレータのみならずエンジン内部に流入してしまった原因は,

車体が左側に傾斜する姿勢であることにより,重力による液体の流れる方向がエンジン側であったこと,

そしてキャブレータのフロートチャンバのオーバーフローパイプが詰まっていたこと,

の2点が複合して発生したものであると判断することができます.

もしオイルチェックバルブが衰損していたとしても,オーバーフローパイプが詰まっていなければ,

エンジン側に侵入する前にオーバーフローして外部に排出されている可能性があるからです.

いずれにしろ,すべての元凶はオイルチェックバルブの衰損であり,

それさえなければこの様な事態には陥ることがなかったのです.


 今回の事例では当社の常套手段として衰損したオイルチェックバルブを除去し,

メガスピードにて設計製作されたオーバーサイズのオイルチェックバルブのニップルを使用してストレート加工を実施し,

オイルラインに新品のオイルチェックバルブを新設しました.

RG500/400Γ (HM31A/HK31A) に限らず,

2サイクルエンジンオイルがエンジン内部に侵入してしまうケース
※1 が多発しています.

最終的な国内2サイクルスポーツの発売が2000年頃であることからすれば,

当然不具合の発生してしかるべき時期にきているといえ,

ましてやガンマシリーズといった1980年代中盤を中心としたモデルであれば,

オイルチェックバルブは当然壊れているものと考えた方が賢明です.

この事例でも当然2番が衰損していればその他も同様であることが疑われ,

漏れていなかったのは偶然と考えるのが妥当であり,

すべてのキャブレータのオイルチェックバルブを対処しました.

やはり少なくともRG500/400Γに乗るのであれば,最低限オイル関係の対策は万全を期したいものです.

その為にできることをメガスピードは惜しみなく技術として提供させていただいております.

ひとりでも多くのライダーが快適にRGを楽しめるよう,日々研鑚を重ねる次第です.





※1 “2サイクルオイルのエンジン内部への流入によるエンジンロック(ウォータハンマ現象)について”






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